任意整理

1.債務整理受任通知

司法書士等は、債務者から依頼を受けると、債権者に対して受任通知を送ります。そして受任通知によって、債権者はそれ以降借主に対する直接の取立てができなくなります。
債務者に直接会いに行くことはもちろんのこと、電話もかけることもできなくなります。
このように、債務者は司法書士等に債務整理を依頼すると厳しい取立てから解放され、平穏な日常の生活を送れるようになりますが、注意点は借金が完全に整理されたから債権者からの取り立てが止まったのではないということです。
なお、当法人では、受任日、遅くとも翌営業日中に受任通知を各債権者宛に送りします。

2.取引履歴の開示

司法書士等は受任通知に際して債権者に債務者との間の全取引履歴を開示するように請求をします。 このようにして債権者から提出された取引履歴に全ての取引が記載されていれば、これについて利息制限法に基づく引き直し計算を行います。
消費者金融等の貸金業者(以下、単に「貸金業者」といいます。)の多くは、利息制限法の制限利率よりも高い利率(現行の出資法上は、年29.2パーセントまで可能。)で貸付をしていますので、利息制限法に基づく引き直し計算をすることによって、多くの場合、借金の額が減り、取引年数によっては、過払いになっている場合もあります。 そこで、司法書士等は、債務者の借金の額をできるだけ減らすために、貸金業者に対して借主との間の全取引履歴を開示するよう請求するのです。
貸金業者の中には、取引履歴の開示を請求しても一部(3年~10年)しか開示しない者もいます。その際の言い分は、「10年以上前の取引記録はコンピューター上、自動的に削除されることになっている。」等といったものです。

このように一部の取引履歴しか開示しない場合、監督官庁(各地の財務局、都道府県金融課等)に通報し、行政指導を促しますが、貸金業者の中には行政指導があっても一切開示をしないところもありますし、既に10年間の取引履歴が開示されているような場合は監督官庁も行政指導をしないようですので、監督官庁に行政指導の申出をしても開示されないようであれば訴訟を提起する他はなく、裁判手続の中で、取引履歴の開示を求めていくことになります。
なお、貸金業者に取引履歴の開示を請求すると取引履歴の開示をすることなく貸金業者から「債権債務なし」での和解(以下、「ゼロ和解」といいます。)提案される場合があります。
貸金業者が取引履歴を開示することなくゼロ和解を提案してくるということは過払い金が発生していると考えてまず間違いありません。
なぜなら、営利目的で貸金業を営んでいる以上、債務が残っているにもかかわらず貸金業者がゼロ和解を提案することはないからです。
したがって、ゼロ和解の提案があった場合、必ず取引履歴の開示を受けたうえで利息制限法の引直計算をして過払金がいくらになるのかを確認する必要がありますので、安易にゼロ和解をするべきではありません。

3.利息制限法に基づく引き直し計算

司法書士等は、貸金業者から取引履歴が開示されると、その取引について利息制限法に基づく引き直し計算を行います。
利息制限法は制限利率を定めていますが、これに違反しても罰則がありません(グレーゾーン金利と言われるものです)。このため、貸金業者の大半は出資法の上限利率である29.2%すれすれで貸付をおこなっています。 しかし、利息制限法では上限利率を以下のように定めています。

利息制限法の上限利率
10万円未満の場合 年20%
10万円以上100万円未満の場合 年18%
100万円以上の場合 年15%

例えば、消費者金融から100万円を年27%の金利で借りて毎月金2万2500円を払っていたとします。年27%の金利は月に直すと月2.25%の金利になります。100万円を借りれば月に金2万2500円が利息になります。 そうすると毎月金2万2500円を払っても元金100万円は全く減ることはありません。
永遠に毎月金2万2500円を払い続けなければならないことになります。
しかし、100万円を借りた場合の制限利率は年15%ですから、月に直すと月1.25%の金利になります。100万円を借りれば月に金1万2500円が利息になります。本来は金1万2500円しか利息として取ってはいけないのです。 そうすると、金1万2500万円から金1万2500円を引いた金1万円は払い過ぎていることになります。この金1万円は元金1万円の返済にあてます。そうすると、元金は金99万円に減ります。
このような計算を続けていくと元金はどんどん減っていき、いずれなくなります。
このような計算を利息制限法に基づく引き直し計算といいます。
この計算をすると借入期間が長ければ長いほど元金が減るということになり、場合によっては借金がゼロになったり、払いすぎたお金が戻ってくることもあります。

4.和解案の提示

司法書士等は、利息制限法に基づく引き直し計算をして、借金額を減らし、そして、減らした借金に基づいて和解案を作成します。 和解案では、貸金業者が主張している金額(グレーゾーン金利に基づく残債務額)ではなく、引き直し計算した後の残額を分割(場合によっては、一括)して支払うことにします。 この分割支払の期間は3年が目安となります。

5.和解成立

依頼者が、月々に支払うことが可能な金額の範囲内で和解案を作成し、消費者金融に対して和解案を提示しますが、その案に、貸金業者が同意してくれれば、和解が成立します。 そうすると、債務者は和解案に基づいて返済を開始します。 貸金業者の中には、「和解案の返済総額が少ない」、「返済期間を短くしてほしい」等の主張をして、提示した和解案に同意しない者がいることがありますが、そのような場合には、司法書士は、再度和解案を検討して、同意してくれるかどうか交渉します。

6.返済開始

任意整理で和解が成立した場合は、和解内容に従って毎月支払っていくことになります。 なお、和解どおりに支払えなくなった場合には、一人で考え込まずに、まず、相談をしてください。一時的に返済が困難である場合には、債権者へ支払を猶予してもらえるように交渉します。 また、今後も和解どおりの支払が困難な場合には、再度、和解内容について見直しの交渉します。 ただ、状況の著しい変化により今後和解を組み直しても返済することが不可能な場合には、自己破産や民事再生の手続を検討することが必要になる場合もあります。

自己破産申立費用
地裁の自己破産(同時廃止)に必要な費用はこちらをご覧ください。

任意整理のメリットとデメリット

メリット
  • 任意整理を司法書士等に依頼した後は、法律上、各債権者からの取立てがとまります。
  • 長期間、貸金業者と取引している場合、利息制限法で定められた利率で、取引当初から計算し直すため、債務額が減額される可能性があり、払い過ぎていたお金が戻ってくる場合があります。
  • 将来利息をカットすることができる。
  • 任意整理する債権者を選択することができ、一部の債権者のみを整理することもできます。 例えば保証人がいて、任意整理することによりその保証人に迷惑をかけることができない場合や自動車のローンが残っているが、自動車を手放したくないといった事情がある場合です。
  • 裁判所を介せず、司法書士等と債権者との話し合いで手続が進むため、に会社や家族に知られることはまずありません。
  • 任意整理の場合は自己破産のような資格制限を受けることが一切ありませんし、また、自己破産や個人再生のように官報に載ることがありません。
デメリット
  • 信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に登録されますので、今後5年~7年ぐらいの間、住宅ローンが組めなくなったり、クレジットカードが作れなくなります。 なお、破産、民事再生の場合もブラックリストに載ってしまいますので、任意整理特有のデメリットというわけではありません。
  • 破産手続きのように借金を帳消しにしたり、利息制限法の引き直し後の元本を減額することは、個人民事再生の場合と異なり通常できません。

※ 一括返済の場合、分割弁済の場合と異なり、債権者によってはある程度減額してくれる場合があります。